老いる

実は父親が1月の中旬から入院していた。今月下旬に退院予定だったのだけど、急遽退院が早まり、明後日には出てくることになった。

母親がひとりだけだとなにかと大変だろうと思って、父親の入院日からできるだけ実家にいるようにした。そんなに深刻な病気ではないのだけど、それでもずっと入院する人間がいると、新しい雑務が増えてしまう。母親の負担が減るようにと思って、意識的に実家にいて、病院にも何度か通ったのだけど、母の負担が減ったのかどうかはわからない。

「実はご主人は癌で……」みたいなドラマチックな展開はなにもなかった。父はポケットWi-Fi借りてこい、急いで持ってこいなどと入院していることを免罪符にしたわがままを発動させ、母がイラっとしていた。「実はご主人は癌で……」みたいなのではなかっただけに、余計にイラっとしたのだと思う。

よく考えたらあと10年もせずに親が70代になる。70代なんてもう老人じゃないか。親が「老人」になることを、今日生まれて初めて具体的に想像した。それは、自分が40代になったり50代になったりするのを想像するよりもげんなりすることだった。

親の年齢を意識したのは、親が30を過ぎたくらいのころだと思う。「33さいっておとなだなあ〜」みたいなことを考えたような気がする。その歳さえも追い越して、僕はいまだに独り身である。僕に子が、できるのかできないのか知らないけれどももしできたら、産まれた時点で子が「おとうさんふわく(不惑)」みたいなことを認識してもおかしくないくらいの歳になっている。

「親が70歳になる」とか具体的に想像したことがなかった。いつかなることは知っていたけど、案外目の前にそれが迫っているとは思っていなかった。

「親が突然死ぬ」のは受け入れられる。そろそろいい歳だし、そういうこともあっても不思議じゃないだろうと思える。ただ、「親が老人になって生きている」というのは、ちょっとまだよくわからない。うちは祖母がどちらもまだまだ健在なので、順番的には親が亡くなるのはまだまだ先のことだ。

気がつけば自分も60代になってたりするんだと思う。この前大学を卒業したばかりだと思ったのに、もう少しでその倍の年齢になってしまう。同じような感じで、この前40代に入ったと思ったのにあっという間に60歳になった、みたいなことも十分ありうる。

自分以外の人間の命で自分の人生を相対的に考えることなんて初めてのことなので若干混乱したのだけど、僕ももうそういう歳になってしまったってことなんだろう。なんだかちょっとがっかりする。