ケアルかけてください

オンラインのゲーム部ができた。早速入部した。みんななかなか「この日これやるから集まろうぜ!」と言わなそうな感じがする。求めていた部活動の姿だ。たまたま都合が合ってできる、くらいが心地よい。

Among Us(宇宙船を舞台にした人狼ゲーム)を知らないひととやったのが、おそらく僕のオンラインゲームデビューなのではないかと思う。ソシャゲとまた違って、コミュニケーションを取る必要がある。父がやっていたドラクエやFFのオンラインゲームをチラ見して、父も「ナターシャさん、ケアルかけてください!」とか言ってるんだろうかと思うと、無理だなと思った。テーブルトークRPGみたいなもんか。テーブルトークも中学生のころ興味があったけど、中学生が興味を持ちそうなもの、という感じがしていた。大人も案外ケアルかけてください欲があったことを知って驚いた。ちなみにケアルはFFに出てくる回復魔法です。

おれはインターネットでなんとなく知っているひとになら、「ケアルかけてください」と言えるのだろうか。言える気がする。この差はなんだ? 「知らないひとからのケアルはかけてもらわない」と小さいころ親にでも教えられたのだろうか。

しかしおそらく部員の方々とはケアルをかける/かけられる関係にはならないだろう。なぜなら我々はきっと、冒険の旅には出ないからだ。領土を拡げて競い合ったり、オセロをしたり、宇宙船の中で殺しあったり、鬼ごっこをしたり、そういったゲームをするのではないかと思う。「私は右周りで行きますね」くらいは言うだろうけど、「ケアルかけて!」とは言わずに済むだろう。少し安心する。この差はなんだ? なんでケアルはそんなに恥ずかしいんだ? 「ケアル」という言葉が恥ずかしいのか?

Among Usでは1ゲームが終わるごとに「gg」と言うひとが多い。Among Usをはじめてすぐの頃、「ggってなんですか?」と正直に訊いた。「good game」の略ですよ、と教えてもらった。それから、知らないひとと殺し合ったあとで僕も「gg」と言えるようになった。仕事のメールで同僚に送る「お疲れさまです」と同じような感じだ。疲れてるだろうな、と思ってなくても「お疲れさまです」と書けるし、そこまでgoodと思ってなくても「gg」と書ける。いずれ僕もそんな感じでサラッと「ケアルかけてください」と言えるようになるのだろうか。

ケアルをかけられずに済み、今のところガツガツしておらず、なんとなく都合が合えば何かやりたいですねという空気の部活。最高の環境だ。何かが始まりそうな予感の中に身を置いている今の状態が、いちばんわくわくするのかもしれない。ケアルをかける前に、ゲームしようと声をかける必要がある。それはそれでハードルが高い。